はじめに
書き写しは、いつでも、どこでも、誰でもできる!
30代の働く女性が私の文章スクールで、書き写しワークをしたあと、こんな感想をくれました。
「フミアキ先生、書き写しなら私にもできそうな気がします。今まで文章の書き方を勉強したくていろんな本を読みましたし、文章教室も行きました。でも、ちっとも身につきませんでした」
「どんな勉強をしてきたの?」
「文章に関する本といえば、日本語の文法や間違いやすい漢字の使い方などを書いたものばかりでした。そんな本をいくら読んでもいい文章は書けるようになれそうもありません」
「構成法を教える本もあったでしょ」
「構成を知ったところで、文章は書けません」
「見本の文章があって、気をつける点を解説してあれば文章は書けるんじゃないですか?」
「そんな簡単な問題じゃありません。文章を書くには、もっと違う何かがあると思うんです」
「文章教室で自分の書いた文章を添削してもらったことは、役に立たなかったですか?」
「そもそも何をどう書けばいいのかわからない者にとって添削指導は、何の役にも立ちません。重箱のすみをつつかれて、てにをはを間違えているとか読点の打つ場所が違うとか指摘されても、スラスラと文章を書けるようにはならないでしょう」
「そうですね」
「私の知り合いで10年間文章教室に通っている人がいますけど、思うほど上達しないと嘆いています」
この女性のように、何とかいい文章、もっといえば美しくて読みやすい文章が書けるようになりたいと努力しているのにうまくいかないと不満を持っている人は少なくありません。文章の書き方に関する本は星の数ほど出版されていますが、納得のいく文章をスラスラ書けるようになる人は10%もいないでしょう。
文章教室に関しても同様です。もともとそれなりに書ける人なら理解してどんどん書けるようになるのでしょうが、文章を書くのが苦手な人が思うように書くことは簡単ではありません。
「でも、名文の書き写しなら簡単に文章が書けるようになると思いませんか?」
と私が質問すると、彼女は、
「名文を書き写すだけなら私にもすぐできそうです。まずは美しい日本語を真似ながら、そのリズム感を味わうことから始めればいいんですよね」
「そうです。真似ることなんですよ」
はじめに
書き写しは、いつでも、どこでも、誰でもできる!
30代の働く女性が私の文章スクールで、書き写しワークをしたあと、こんな感想をくれました。
「フミアキ先生、書き写しなら私にもできそうな気がします。今まで文章の書き方を勉強したくていろんな本を読みましたし、文章教室も行きました。でも、ちっとも身につきませんでした」
「どんな勉強をしてきたの?」
「文章に関する本といえば、日本語の文法や間違いやすい漢字の使い方などを書いたものばかりでした。そんな本をいくら読んでもいい文章は書けるようになれそうもありません」
「構成法を教える本もあったでしょ」
「構成を知ったところで、文章は書けません」
「見本の文章があって、気をつける点を解説してあれば文章は書けるんじゃないですか?」
「そんな簡単な問題じゃありません。文章を書くには、もっと違う何かがあると思うんです」
「文章教室で自分の書いた文章を添削してもらったことは、役に立たなかったですか?」
「そもそも何をどう書けばいいのかわからない者にとって添削指導は、何の役にも立ちません。重箱のすみをつつかれて、てにをはを間違えているとか読点の打つ場所が違うとか指摘されても、スラスラと文章を書けるようにはならないでしょう」
「そうですね」
「私の知り合いで10年間文章教室に通っている人がいますけど、思うほど上達しないと嘆いています」
この女性のように、何とかいい文章、もっといえば美しくて読みやすい文章が書けるようになりたいと努力しているのにうまくいかないと不満を持っている人は少なくありません。文章の書き方に関する本は星の数ほど出版されていますが、納得のいく文章をスラスラ書けるようになる人は10%もいないでしょう。
文章教室に関しても同様です。もともとそれなりに書ける人なら理解してどんどん書けるようになるのでしょうが、文章を書くのが苦手な人が思うように書くことは簡単ではありません。
「でも、名文の書き写しなら簡単に文章が書けるようになると思いませんか?」
と私が質問すると、彼女は、
「名文を書き写すだけなら私にもすぐできそうです。まずは美しい日本語を真似ながら、そのリズム感を味わうことから始めればいいんですよね」
「そうです。真似ることなんですよ」
私の文章スクールでは、手本の文章を書き写したあと、ぜひ真似てほしいポイントについても解説します。
それから、書き写していて興味を引かれた表現や書き方があったか確認してもらいます。手本が小説ならば登場人物の内面の葛藤描写で心に残ったところを読み返してもらいます。こうすることで、気に入った文がぐっと心に染み込んでいきます。
「書き写していると、文章の構成や表現も自然に理解できる気がします。それを真似て自分の文章を書いているうちに、私でも文章が上達しそうです」
先の女性がそう言っていました。誰でも名文書き写しを実践すると、素敵な文章がみるみる書けるようになります。
先日小説を書く課題を出しました。1週間後、素晴らしい作品が続々と私のもとに送られてきました。今まで小説など書いたこともなかった人が、1000文字程度の短い小説が書けるようになったのです。
もちろん、内容も素晴らしい。登場人物の葛藤が見事に表現できていて最後まで一気に読ませる力を持っています。読んでいて思わず笑ってしまった小説もありましたし、短い文章で感動の涙を誘う作品もありました。書き写して真似るという指導法が功を奏したのです。
文章の指導法を、私は今でも試行錯誤しながら向上させています。しかし、美しい日本語を書き写すワークだけは絶対に外しません。この書き写しを実践すれば、誰でも日本語の基礎が身につき、10倍うまく書けるようになることを実感しているからです。
具体的には次のような効果が期待できます。
1)書き写しで書き言葉に慣れ、文章を書くベースができる
2)書き写しで書く体力がつき、文章を書くことが楽しくなる
3)美しい日本語のリズム感が身につき、読みやすい文章が書けるようになる
4)表現力が豊かになり、魅力的な文章が書けるようになる
5)理解力が身につき、深く洞察する力が育つ
6)論理的な思考力が身につき、説得力が向上する
7)書きたいことが次々とひらめくようになる
8)脳が活性化して記憶力や思考力が向上し、集中力、忍耐力も身につく
9)書き写しはボケ防止にもなる
書き写しに脳を活性化させる効果のあることは科学的にもわかってきていて、認知症対策にも活用されています。
ここで約束しましょう!
私が主宰する文章スクールの受講生たちにできたことは、あなたにも必ずできます。やることは簡単です。本書を読んで書き写しを実践すればいいだけです。いつでも、どこでも、そして、誰でもできます。
夏目漱石は現代日本語の源流です!
私が本書で書き写しの手本として夏目漱石の作品群を選んだのには、おもに次の3つの理由があります。
1)漢詩や俳句の流れをくんだ美しい日本語だから
2)子供から高齢者まで親しまれている国民的作家だから
3)明治期の大変革の息吹を作品に取り入れている作家だから
明治維新によって日本は180度大転換しました。政治だけでなく社会システムや文化まで大きく変わったのです。欧米の新しい考え方が流入し、日本語も大きく変化していきます。私たちが今使っている現代日本語がどのように形成されてきたかを考えると、漱石は絶対に外せない作家です。
明治期に一番売れた作家といえば漱石です。漱石の使った美しい日本語がその後の作家たちに大きな影響を与えました。現代日本語の直接の源流が漱石にあるといっても過言ではないくらいです。
ちなみに「新陳代謝」「反射」「無意識」「価値」「電力」「肩が凝る」という言葉は、漱石の造語です。
漱石の美しい日本語を書き写すことで、あなたのなかに高貴な日本語の泉が湧きだしてきます。あなたのなかに現代日本語の土台も自然にできます。
明治そのものを生きた漱石の文章を書き写すことは、まさしく近代日本の幕開けした大変革期を生きた作家の魂にふれることでもあります。そこから変化の激しい平成の時代を生き抜く智恵を学ぶこともできるでしょう。
何と言っても、夏目漱石の残した素晴らしい文章を書き写すことは、素晴らしい文章を書く土台を作ってくれます。
なお、本書で手本とする漱石の作品は青空文庫から引用しています。その文章はまぎれもなく名文ですが、昔の文体なので、書き写しの手本とするため、漢字の使い方や古語などに若干手を加えてあります。
高橋フミアキ