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総合出版 コスモ21

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なぜ、在宅では「いのち」の奇跡が起きるのか?

ナゼ、ザイタクデハ「イノチ」ノキセキガオキルノカ?

在宅医療30年一筋 死にゆく人が教えてくれた真実!

東郷清児著

どんな生き方、死に方が“しあわせ”なのか?

どんな生き方、死に方が“しあわせ”なのか?
在宅医療のなかで私(著者)が見つけたヒントをお伝えします。
経済、長寿が世界トップクラスの日本で、とりわけお年寄りの幸福度があまりにも低いのはなぜか? 日本人の半分は「自宅で最期」を願っているのに8割が病院で亡くなる国は、世界を見ても日本だけ! 30年在宅医療を続けてきた在宅医の著者は、その理由の一つが、医療側の事情にあると読み解いている。
人生において最後の瞬間はきわめて尊厳のある瞬間なのに、医療がそれを奪ってきたのではないかと警鐘を鳴らす。
在宅医療の現場でいく度も遭遇してきた“いのち”の奇跡を綴りながら、“いのち”の真の姿を見落としてはならない、そして、患者さんに一貫して寄り添う医療や福祉のあり方を提示している。
医療・福祉関係者だけでなく、いずれは最期を迎える誰もが読んでほしい一冊。

主な内容

1章 終末期医療と延命治療が抱える矛盾
2章 “いのち”の真の姿を見落としていないか?
3章 在宅医療から見える「いのち」の意味
4章 世界を見据えた未来型モデル
5章 患者さんに一貫して寄り添う伴走者が必要!

詳細な目次のページを開く

なぜ、在宅では「いのち」の奇跡が起きるのか?
価格
1760円(本体1600円)
判型
四六判
頁数
288 頁
発行日
2020.11.27
ISBN
978-4-87795-393-5

立ち読み

はじめに

「先生、私、将来100歳を幸せに迎えられるでしょうか? 100歳まで生きられるんだったら、絶対、幸せでなくちゃ嫌です!」

 今、あなたからそう問い詰められたとしたら、きっと私はこう答えるでしょう。

「それは、あなた次第です」

「100歳まで幸せに生きられたらいいなぁ」と漠然と希望をもっているだけ、「年老いた私を誰かが幸せにしてくれるだろう」と淡い期待を抱いているだけだとしたら、それは自分の人生を「人まかせ」や「成り行きまかせ」にしているのと同じです。

 他方、やみくもに「将来への不安」をもちながら、そのまま何もせずに生きているとしたら、それはたった一度の人生を無駄にしてしまっていることだと、私は思うのです。

 もし、ほんとうに100歳のあなたが幸せでありたいと願うのなら、ひとつだけ方法があります。

 それは、自分がやりたいこと、好きなこと、楽しいと思うことのなかに自分から思い切って飛び込むことです。

 年齢や置かれた状態に過度にとらわれることなく、常に学びと体験をくり返しながら知識を得ること、人とつながり情報交換することに尻込みをしないこと、そして可能なかぎり生きがいと社会生活における自分自身の役割を探求し続けることです。

 あなたが幸せに生きるとき、あなたの「いのち」につながる他の「いのち」にも幸せが伝播して、その広がりが世の中を幸せ色に塗り替えていくに違いありません。

 決して忘れないでください。

 あなたの人生は、あなた自身の心とその手の中にあることを。

 あなたこそが、あなたの「いのち」と「魂」の指揮官なのですから。

 国連は毎年、国際幸福デーの3月20日に世界幸福度ランキングというものを発表しています。これは、各国の国民が自分の幸福度を主観的に自己評価した世論調査をもとに分析したものです。

 第一回目の2012年、日本の幸福度の順位は45位でした。私はこの数字にたいへんなショックを覚えました。なぜなら、そのときの日本人の平均寿命は83・4歳で世界第一位だったからです。その後も日本人の平均寿命は伸び続け、長生きできる人が増えているにもかかわらず、それと逆行して幸福度は下がっていきました。そして2020年、日本の順位は153カ国中62位と過去最低を記録しました。

 日本人の幸福度を年代別に見たときに、わが国の社会の問題点が浮き彫りになります。他のほとんどの国においては、幸福度が壮年期に一度下がったとしても、老年期に向けてふたたび上がっていくというU字回復を示します。しかし日本の場合、一度下がった幸福度は老年期も低いままで回復しないのです。すなわち、世界のどの国よりも長生きできている日本の多くのお年寄りが幸せを感じていないということです。

「長生きなんかするもんじゃない」

「早くお迎えに来てほしい」

 私は長年、在宅医をしていますが、お年寄りの口から漏れ出るこんな言葉を耳にするたびに、どうしようもなくやるせない気持ちになります。

 世界トップクラスの経済大国になり、健康長寿を勝ち得た日本人の、とりわけお年寄りの幸福度が、なぜこんなにも低いのでしょうか。

 本来、長生きができるということは幸せであるはずなのに、なぜわが国ではこれだけ長生きしても“しあわせ”を感じる人が増えないのでしょうか。

 ここには、大きくふたつの理由があるというのが私の考えです。

 ひとつは、国全体に蔓延している潜在的な意識がもたらすものです。

 すなわち、高齢者が増えれば増えるほど、医療や介護のために捻出する国家の財政的負担が経済の伸びを上回って増大することで、国が衰退してしまうという間違った考え方です。この考えによって、国はとるべき対策や進むべき方向を誤ってしまい、国民の意識を間違った方向へと誘導してしまうのです。これは、日本社会の精神性が十分に成熟していない証拠であると私は感じています。

 なぜ私が、このような考え方を間違いだと言い切れるのか、この本の中でご説明していきます。

 そしてもうひとつは本人自身の意識です。

 どのように生きるべきか、そして、どこでどのように人生を終えるのか、そのことは自分で考えるべきことです。あなたの生き方、死に方の正解を、どんな立場の人であれ、あなた以外の誰かが握っていることなど決してあり得ないからです。

 幸福度ランキングの上位10カ国のうちの半数を占める北欧諸国の社会的な特長は、心の欲求を満たすものが“お金や物質的なもの”ではないという価値観と、『個』を尊重した“自分らしい生き方”を優先する文化です。

「ものごとはね、心で見なくちゃよく見えないってことさ。かんじんなことは、目には見えないんだよ」

 これは、小説『星の王子様』の中に出てくるもっとも有名な場面で、キツネが王子さまに伝えた「秘密」です。

 相手に対する想い、愛、信頼、きずな、情熱、夢、希望……

 これらはどれも見えないけれど感じているものであり、何より大切なものだからこそ、そこに生きる価値が生まれるのです。何歳になったとしても、決して見失わないでください。

 せっかく長生きするのなら、せっかく100歳まで生きられる“幸運”を手に入れられるのなら、ワクワクしながら、楽しくハッピーに生きなければ損です。そう思いませんか?

 どんな生き方、死に方が“しあわせ”なのか?

 在宅医療のなかで私が見つけ出したそのヒントを、この本の中でみなさんにお伝えすることができるとすれば、それが私にとって、まずもっての幸せです。

 なお、本文中で登場する患者さんは、どなたも私が在宅医として関わった方たちですが、個人情報に触れないように文章を構成しています。

目 次

なぜ、在宅では「いのち」の奇跡が起きるのか?…もくじ

はじめに

1章 終末期医療と延命治療が抱える矛盾

医療に必要なのは一貫性

老人病院が牢獄であった時代

『胃ろう』の登場

自宅における終末期医療

終末期の医療に関する希望を文書に

施設における終末期医療

延命治療と平穏死

闘い抜く姿勢にも医療は寄り添うべき

神経難病『ALS』の延命治療について

“いのちの尊厳”を見失ったまま発展してきた医療

「尊厳ある生」のその先に「尊厳ある死」は存在する

「正解がないこと」が正解

【コラム】〈満身創痍の在宅専門医〉見えない牢屋に常に閉じ込められている感覚になることも

2章 “いのち”の真の姿を見落としていないか?

生活の中にあった祖父の死

祖母が死の直前に伝えてくれたこと

『生命』と『いのち』

死と向き合う中で“幸せな死”が存在することを知る

亡くなった患者さんから教えられた「死の尊厳」

“医療の常識”に従った父の死

専門バカの“壁”

患者さんの気持ちを置き去りにしてはいけない

大切なのは人間同士の信頼関係

医学教育に抜け落ちていること

医療の恩恵と目に見えぬ役割

【コラム】〈満身創痍の在宅専門医〉緊急コールと付き合い続ける

3章 在宅医療から見える「いのち」の意味

日本の医療を成り立たせてきたもの

医療は今、大きな変革を迫られている

病院から在宅へ

在宅医療の4つの特性

①広い知識と対応能力が必要である

②検査や治療の手段が限られたなかでの判断を求められる

③バックアップ病院の確保が義務付けられている

④家族との関係づくりや他職種との連携が重要である

病院医師と在宅医師では患者さんの見え方が違う!

在宅医療は介護のシステムと両立して実践することが重要

一人ひとりが考えて乗り越えなければならない

「在宅」でいのちが輝く

東郷流「在宅医10の心得」

「現場発! 在宅オモシロよもやま話」

【コラム】〈満身創痍の在宅専門医〉私も生身の人間だが……

4章 世界を見据えた未来型モデル

失われていく高齢者への「敬愛」や「感謝」

お金に翻弄される『医療の現場』

お金に翻弄される『介護の制度』

『金』か?『いのち』か?

幸せな未来がイメージできない理由

「地域包括ケアシステム」と「地域共生社会」

地域包括ケアシステムの構築における障壁

『知識』/『資源』/『連携』

在宅チームの連携を強化するために

地域包括ケアシステムの核となる施設が必要

「地域包括ケアシステム・連携モデル研究センター構想」

【コラム】〈満身創痍の在宅専門医〉25回目の結婚記念日に大量に吐血

5章 患者さんに一貫して寄り添う伴走者が必要!

患者さん本人の幸せとどう向き合うか

患者さんに寄り添う伴走者は誰か

医療の第一歩は徹底して患者さんの話を聞くこと

人生の最期とどう向き合うか

死を考えることは生を充実させることにつながる

【コラム】「やっぱり私、誰かのためにもっと歌いたい」

おわりに

プロフィール

東郷清児(とうごうせいじ)

医療法人社団医輝会 理事長、東郷医院 院長。専門は内科・老年期精神神経医学。

1963年鹿児島県生まれ。鹿児島大学医学部卒。3年間大学病院に勤務後上京。東京都立多摩老人医療センター(現在の多摩北部医療センター)精神科、武蔵野赤十字病院内科などに勤務する傍ら、武蔵野市内の診療所で在宅医療に従事。

平成11年より、市中病院の在宅診療部部長、平成18年より在宅療養支援診療所院長として在宅医療、在宅ホスピスを専門に活動。平成27年より現職。