プロローグ 文章が一気に見違える簡単テクニック!
文章で損をしている人に共通していること
落ち着きのない人は、文章が雑だったり、誤字、脱字があったりします。
カッコつけたがる気どり屋は、やたらと難しい漢字を使ったりカタカナ語を使ったりします。
虚栄心の強い人は学者のような回りくどい言い方をすることもあります。
人の数だけ個性があるように、百人の書き手がいれば百通りの文章があります。
まさしく文章は自分の分身みたいなものなのです。書き手の知性や感性があらわれますし、人間性や心情がにじみ出てきます。どんなことに興味を持っているのか、どんなことを考えているのか、文章にはありありと出ています。
ときには、人間性や性格は申し分ないのに、文章があまりにも下手だというので、とても損をしていることもあります。
もし、あなたがこんなことを言われたらどうしますか。
「お前の文章はつまらん」
「何を言いたいのかわからない」
「表現があいまいで中身がない」
「話があっちこっちに飛んでいてわかりづらい」
「勘違いしたまま言葉を使っている」
「誤字、脱字が目立って文章が荒っぽい」
「表現が回りくどくて鬱陶しい」
「文法ルールがめちゃくちゃ」
「もう少し、国語の勉強をしたほうがいいんじゃない」
「君の文章は落ち着きがないねえ」
「文章に頭の悪さがにじみ出ているよ」
恥ずかしくて文章を書くのが億劫になるのも頷けます。ましてや、人間性の問題だとか、何を学校で勉強してきたんだ? とけなされたら、完全に自信喪失! なんてことにも。
僕の文章スクールではたくさんの受講者が勉強しています。思いやりがあって、やさしくて、親切で誠実な人が自分の書いた文章のために恥ずかしい思いをしているのを見ると、僕はいたたまれなくなります。学校で作文の授業を受けてきたはずなのに、どうしてこんなことが起こるのでしょうか。
じつは、自分の書いた文章で損をしている人に共通していることがあります。大したことではありません。文章を書くときのごく簡単なルールとテクニックを知らないだけです。それらを学ぶ機会がなかっただけなのです。
次の文章を見てください。どこがおかしいと思いますか。
〈伝わらない文章〉
わたしは主人を責めるばかりで自分の態度を改めることを忘れ、家に帰ってこない主人を私が責めると、主人はますます家に帰ってこなくなり、いつしか離婚の危機を迎えました。そのとき、私はものすごく反省したのです。主人が帰りたくなるような家を作るように私が、もっともっと努力するべきで、主人を責める前にわたしは、主人が快適に過ごせるような家庭を作ることに努力しようと思いました。
どこがおかしいか、はっきりしなくても、読んでいてしっくりこないことはわかると思います。次の文章と読み比べてみてください。
〈伝わる文章〉
私は主人を責めるばかりで自分の態度を改めることを忘れていました。家に帰ってこない主人を私が責めると、主人はますます家に帰ってこなくなります。いつしか離婚の危機を迎えました。そのとき、私は気づいたのです。主人が帰りたくなるような家庭を作るように私が努力するべきだと。それから、私の努力は、主人が快適に過ごせるような家庭を作ることに向かいました。
どこを改善したか、わかりますか。ポイントは3つです。
㈰1文を60文字以内の短文で書く
㈪副詞はなるべく使わない(ものすごく、もっともっと)
㈫漢字とひらがなを統一する(私、わたし)
こんな簡単なテクニックを知っているだけでも、文章は見違えるようになります。
本書は、最低限これさえ知っておけば文章で恥をかくことはない「43のテクニック」(18の表現テクニック+18の文体テクニック+7つのとっておきのテクニック)を紹介しています。
うまく書けないもう1つの理由
じつは、文章がうまく書けない理由がもう1つあります。文章に書きたいことがうまくまとまらないということです。
僕の文章スクールで生徒たちから、こんな話をよく聞きます。
・書きたいことはあるんだけど、どうまとめて書けばいいのかわからない
・ぼんやりとした内容が頭にあるだけで、書き出しからつまずいてしまう
・どうやって結論にもっていけばいいのかわからない
でも、悩む必要はありません。次の「5つのステップ」を踏んでいくだけでいいのです。
ステップ1 情報集め(取材)&構想
書くことがまとまらず混沌としているとき、いくら考えていてもつながりのいい文章は浮かんできません。
ここでやるべきことは、混沌としたままでいいので言葉を吐き出してみることです。テーマに関係ありそうかなと思ったら、とにかく目につくもの、頭に浮かんだ言葉、気になるキーワードなど、何でもいいから書きとめておくことです。メモ用紙に書いてもいいし、コーヒーショップのナプキンでもいいし、ケータイ電話に打ち込んでもかまいません。
こんなこと関係ないかもと思ったことでもかまいません。とにかく書きとめてください。
ステップ2「言葉のマップ」作り
集まってきた情報は混沌としていて、まったくまとまりがないように見えるかもしれません。しかし、それらをつなぎ合わせていくと、不思議と1つの方向が見えてきます。
この作業に威力を発揮するのが「言葉のマップ」作りです。
まず、ノートの紙面の中央に、書きたいテーマにいちばん関係しそうな言葉を書き込みます。次に、集まった情報を見ながら、気になる言葉を選んで書き込み、線で結んでいきます。それぞれの言葉は、その前の言葉とどんな関係にあるか考える必要はありません。ただ、前の言葉を見て思いつくままに書き込んでいけばいいのです。
中央の言葉の次に書く言葉は6つくらいが目安です。その6つの言葉の次にくる言葉は3つくらいが目安です。そうして書き出した言葉は次頁の図にあるように次から次へとつなげていきます。紙面がほぼ埋まるくらいまで書き出していってください。
書き終わったら、全体を眺めてください。同じ線でつながったいくつかの言葉のグループが出来上がっています。それぞれの線に異なる色を塗れば、言葉のグループはもっとはっきり浮かび上がってくるでしょう。
それぞれの言葉のグループを見ていくと、自分が言いたいこと、書きたい文章の中身がすっきりと見えてきます。
ステップ3 構成作り
構成とは、1つのまとまりのある内容を組み立てていくことです。自分のメッセージを伝えるためにはどんな情報が必要かを考え、組み立て方を決めていきます。最初にこれを書き、次にこれを書くというふうに順番を決めておくわけです。
この作業は簡単にできます。ステップ2で作製したマップの言葉のグループを見てください。各グループにある線で結ばれた言葉から思い浮かぶことがあなたが書きたいことです。
あとは、どのグループから順番に書いていくか番号をふっておきます。
ステップ4 気持ちを落ち着かせる
ここまで準備が出来上がったら、きっとすらすら執筆できます。このときのポイントは、感情的にならないように気持ちを落ち着かせリラックスすることです。
意外に思われるかもしれませんが、感情が高ぶりすぎても、落ち込みがひどくても伝わる文章は書けません。心を落ち着かせるために、いちばん手っ取り早いのは深呼吸することです。
ステップ5 推敲
紙に書く場合はもちろんですが、ブログやメールといった気軽に書けるメディアでも、必ず推敲してから掲載するように心がけましょう。どんな文章でも推敲する癖をつけることです。
簡単な推敲方法があります。それは、声に出して3回読み返してみることです。たった3回声に出して読むだけで、あなたの文章は数段レベルアップします。大した手間でもないので、ぜひやってみてください。
この簡単な5つのステップを踏むだけで文章は格段にうまく書けます。
あとは、本書にある「43のテクニック」を使いこなせば、文章を書く基本はしっかり身につきます。
日本人は書き方のスキルを勉強していない
インターネットのおかげで、文章力の重要性を痛感している人が多いのではないでしょうか。
メールはもちろん、メールマガジン、ブログ、SNS、ツイッターなど、インターネットでのコミュニケーションツールが増えるにつれて、書く機会は格段に多くなっています。
昔もいまも文章で自分を表現することが社会生活を営むための大切な手段であることに変わりはありません。インターネット上でも自分を上手に表現できる人は、独自のワールドを構築しています。
日本では昔から文章力と人間力を結びつけて考える傾向が強く、碌な文章も書けないのは人間が出来ていないからと考える傾向があるようです。そのせいか、コミュニケーションの手段として文章を書くテクニックを学ぶことを疎かにしてきました。
文章を書くということは、職人が技術を身につけていくのと同じようなものです。弟子が師匠の技術を真似て覚えていくように、書く技術を真似て覚えさえすれば必ず素敵な文章を書けるようになるのです。それが本書にある「5つのステップ」と「43のテクニック」です。これさえ身につけておけば十分です。僕の文章スクールの受講者が証明してくれています。
文章を書くことは、生きる目的にもなる
文章を書くことは、生きる目的にもなります。文章を書くことが、どうして、生きる目的になるのか? 不思議に思われますか。
1つ例を挙げてみます。困っている人を救済するとき、あなたならば、どうしますか?
その人がお金に困っているとしたら、お金を援助するだけで、はたして、その人の救済になるでしょうか? あなたからお金を受け取った人は、そのお金で生活に必要なものを購入します。しかし、使いはたしたら、またお金に困るわけです。
水の少ない国には、水そのものをプレゼントするよりも、井戸を掘ってあげるほうが喜ばれます。もっと喜ばれるのは、井戸の掘り方を教えてあげることです。つまり、不足しているものを援助するだけでなく、ノウハウを伝えることが必要なのです。
あなたが幸運をつかんだとしたら、それをどんなふうにつかんだのかわかりやすく文章に書いて伝えれば、多くの人を幸せへと導きます。それは素晴らしい社会貢献です。あなたが人生で受け取ったこと、学んだことを文章に書き残すことも社会貢献になります。あなたがIT技術者で、その熟練の技を文章に書いたとします。その文章は、後輩たちのバイブルとなるでしょう。
宮本武蔵は、江戸時代初期に活躍した剣豪です。吉川英治の小説では、岡山県の宮本村で生まれ、手のつけられない乱暴者だったとあります。関ヶ原の戦いに西軍として参加したものの、敗残兵となって国に帰ります。立身出世を夢見たけれど、武蔵は生きる目標を失ってしまいます。近寄るものすべてを斬り殺してしまう武蔵を、沢庵和尚が大木に縛り付けました。武蔵はそこで、人の道を教わり、剣の道に生きることを決意したのです。
剣術修行の旅に出た武蔵は、数々の武芸者に出会い、立派な剣術家へと成長していきます。そして晩年、死の直前まで『五輪書』を執筆しました。この『五輪書』は、武蔵の生涯やこれまでに修得した兵法、太刀の持ち方や心の持ち方などが書かれています。
つまり、武蔵は、人生で獲得した学びや生き様を文章に書き残したのです。そして、この『五輪書』は、剣を志す者たちに大きな影響を与えました。
あなたが人生から受け取ったことを、文章に書いて残すことは、まさにこの『五輪書』を書くようなものです。あなたの文章が人生に行き詰った若者を救うかもしれません。あなたの言葉に自殺を思いとどまる人がいるかもしれません。
文章を書くことは、生きる目的になり得ると思いませんか?
文章を書くって、ホントに素晴らしいですね!