新装版 6歳までの脳は「絶対音感」で育つ
シンソウバン6サイマデノノウハ「ゼッタイオンカン」デソダツ
幼児の感じる力がみるみる育つ「ミュージックステップ」
譜久里勝秀著
幼児は“感じる天才”
幼児の「感じる世界」に徹底的にこだわる音楽教育システム「ミュージックステップ」。この音楽教育法で育った子どもたちは絶対音感を身につけてしまうのはもちろん、幼児とは思えないほどの深い集中力、けじめのあるきちんとした振る舞いなど、音楽的な能力だけでなく、さまざまな能力が育っている。
主な内容
プロローグ 幼児はみんな「感じる」天才
1章 「感じる」力が幼児を伸ばす!
2章 ミュージックステップで「できる」自信が育つ
3章 「感育」でみんなが「できる子」に
4章 親子でミュージックステップを楽しむ
- 価格
- 1540円(本体1400円)
- 判型
- 四六判
- 頁数
- 192 頁
- 発行日
- 2014.11.7
- ISBN
- 978-4-87795-301-0
立ち読み
プロローグ 幼児はみんな「感じる」天才
幼児たちは、とても楽しそうです。きらきら輝くその目は、先生の表情や動きに集中し、やがて教室中に鈴の音が響くような、清らかな幼児たちの歌声が広がります。「見上〜げてごらん〜夜の〜ほしを……」。頭声発声という発声法による歌声は、高い声が頭のてっぺんからスーッとぬけるようなやさしい感じで、心地よさが耳に残ります。
澄み切った歌唱は、子どもたちの心の中でも共鳴し合い、互いの感動が伝わるのでしょう、うっすらと涙さえ浮かべて集中しています。何度も聞いたことのある曲なのに、そのあまりにも清らかな歌声が心に響いてきて、大人でも思わず涙が出てくるような感動を覚えます。
これは、私が提唱する幼児向けの音楽教育システム「ミュージックステップ(MS)」を実践する幼稚園や保育園で、ごくふつうに見られる学習風景です。
この教育システムは、幼児の「感じる世界」に徹底してこだわり、そこにおける発育の原理を究明することで明らかになった学習法です。「感じる」ことに著しい興味を示す幼児の特性を活かし、音楽を通して感じる段階(ステップ)を一つひとつ体験していくようになっています。
幼児期における子どもの成長は、一生のうちでもっとも急速に進みます。とくに脳の成長速度はすさまじく、二歳で約六〇パーセント、四歳で約八〇パーセント、八歳では約九〇パーセントまで成長してしまいます。しかも、この時期の成長は、幼児自身の「感じる」体験がさまざまに重なって進んでいきます。
赤ちゃんに明るい軽やかな音楽を聴かせますと、自然に赤ちゃんの手足が動いて、目を丸くしてウキウキしだすのを目にすることがあるでしょう。優しいメロディーだと、落ち着いて安心した表情を見せますし、反対に重々しかったり激しいものだったりすると、表情も硬くなり泣きだしてしまうこともあります。こうした赤ちゃんの「感じる」反応は、すでに胎児の状態でも起こっていることがわかっています。
こうして、出生前後から六歳くらいまでの幼児期は、「感じる」世界を中心に成長していきますが、ここで大切なことは、この「感じる」体験が、その後の成長に決定的な影響を与えるということです。「三つ子の魂百まで」とは、幼いときの性質が大人になっても変わらないということですが、まさしく、そのとおりなのです。
残念ながらこれまでは、こうした幼児の「感じる」特性が、さほど重視されてはきませんでした。もちろん、それを活かした教育(私は、これを「感じる教育」、すなわち「感育」と呼んでいます)も確立されていませんでした。ミュージックステップはまさしく、そうした感育のために考案された教育システムなのです。
プロローグ 幼児はみんな「感じる」天才
幼児たちは、とても楽しそうです。きらきら輝くその目は、先生の表情や動きに集中し、やがて教室中に鈴の音が響くような、清らかな幼児たちの歌声が広がります。「見上〜げてごらん〜夜の〜ほしを……」。頭声発声という発声法による歌声は、高い声が頭のてっぺんからスーッとぬけるようなやさしい感じで、心地よさが耳に残ります。
澄み切った歌唱は、子どもたちの心の中でも共鳴し合い、互いの感動が伝わるのでしょう、うっすらと涙さえ浮かべて集中しています。何度も聞いたことのある曲なのに、そのあまりにも清らかな歌声が心に響いてきて、大人でも思わず涙が出てくるような感動を覚えます。
これは、私が提唱する幼児向けの音楽教育システム「ミュージックステップ(MS)」を実践する幼稚園や保育園で、ごくふつうに見られる学習風景です。
この教育システムは、幼児の「感じる世界」に徹底してこだわり、そこにおける発育の原理を究明することで明らかになった学習法です。「感じる」ことに著しい興味を示す幼児の特性を活かし、音楽を通して感じる段階(ステップ)を一つひとつ体験していくようになっています。
幼児期における子どもの成長は、一生のうちでもっとも急速に進みます。とくに脳の成長速度はすさまじく、二歳で約六〇パーセント、四歳で約八〇パーセント、八歳では約九〇パーセントまで成長してしまいます。しかも、この時期の成長は、幼児自身の「感じる」体験がさまざまに重なって進んでいきます。
赤ちゃんに明るい軽やかな音楽を聴かせますと、自然に赤ちゃんの手足が動いて、目を丸くしてウキウキしだすのを目にすることがあるでしょう。優しいメロディーだと、落ち着いて安心した表情を見せますし、反対に重々しかったり激しいものだったりすると、表情も硬くなり泣きだしてしまうこともあります。こうした赤ちゃんの「感じる」反応は、すでに胎児の状態でも起こっていることがわかっています。
こうして、出生前後から六歳くらいまでの幼児期は、「感じる」世界を中心に成長していきますが、ここで大切なことは、この「感じる」体験が、その後の成長に決定的な影響を与えるということです。「三つ子の魂百まで」とは、幼いときの性質が大人になっても変わらないということですが、まさしく、そのとおりなのです。
残念ながらこれまでは、こうした幼児の「感じる」特性が、さほど重視されてはきませんでした。もちろん、それを活かした教育(私は、これを「感じる教育」、すなわち「感育」と呼んでいます)も確立されていませんでした。ミュージックステップはまさしく、そうした感育のために考案された教育システムなのです。
「感じる」体験をたっぷりと
幼児期の子どもにとって「感じる」状態は、自らの意思でその気になって興味をもち、自ら感じ取ろうとするときに得られます。そのように「感じる」状態を十分に体験することで、積極的に行動する前向きな感性が育まれていきます。
「お行儀の良い子に育ってほしい」「頭のいい子に育ってほしい」「素直な子に育ってほしい」「お勉強が好きな子に育ってほしい」「音楽が好きな子に育ってほしい」「創造性の豊かな子に育ってほしい」「頑張れる子に育ってほしい」……。どれも親ならば子どもに望むことばかりですが、これらは幼児期の「感じる」体験と深く関係しています。
また、幼児期は人間として生きていくために必要な能力を身につけるうえでも大切な時期で、ここでも「感じる」体験が大きな意味をもっています。
さまざまな能力を育て獲得するには、それぞれに「臨界期」といって、それほどの努力や負担がなくても容易に獲得できる時期があります。反対に、その時期を逃してしまうと、獲得するのがきわめてむずかしくなります。
とくに聴覚による言語的な能力や音感的な能力は、その臨界期が幼児期にあります。言語については、障害がないかぎり、どんな子でも二、三歳になれば話せるようになっていきますが、もし、その時期に言葉を耳にする機会を失えば言語的な能力に障害が生じてきます。一方、“読み聞かせ”や“語りかけ”などのはたらきかけをすることで、子どもの言葉の力をさらに伸ばすこともできるでしょう。
同じようなことは音感についてもいえます。とくに三歳半から五歳半くらいまでが臨界期である絶対音感の獲得は、何となく音楽にふれている程度ではむずかしいのですが、一定の配慮をし、環境を整えれば、どんな幼児でも身につけることができます。
実際、ミュージックステップでは、ほとんどの子どもたちが絶対音感を身につけていますが、そうした子どもたちの様子を見ていますと、音楽的な能力だけでなく、じつにさまざまな能力が育っていることに驚かされます。音を聴き分けることはもちろんのこと、幼児とは思えないほどの深い集中力、けじめのあるきちんとした振る舞い、そして聴力のみならず五感全体の感度がすばらしく、まるで“高感度のパラボラアンテナ”をもっているようです。
ミュージックステップは感育に最適の教育システム
「感じる」状態を十分に体験しながら「感じてわかる」状態へと移行していく。それが、六歳くらいまでの幼児期に、子どもたちが通過していく成長のステップです。ところが、私たち大人は、そうした幼児期特有の成長ステップを考慮せず、従来の幼児観で、言葉や理屈にばかり頼って何とか「教え込もう」とするのです。それでも幼児は、未発達な言葉の力で大人の言うことを受けとめようとしますから、「考える」ことに脳をはたらかせるようになり、そのため「感じる」力は、どんどん影を潜めてしまうことになります。
幼児期こそ「感じる」ことにいちばん前向きに集中できるのに、言葉で教え込まれることにばかり慣らされてしまうと、「感じる」ことで自然に得られる自主的、自発的、積極的に物事を吸収しようとする意欲が奪われていきます。その結果、教えられなければできないとか、指示されないと行動しないようになり、自ら感じることで「何かを思いつく」とか「相手とリズムを合わせよう」とすることも少なくなり、創造性や協調性も育ちにくくなるのです。
では、そのような幼児期の子どもに対して、私たち大人は、いったいどのようにはたらきかけたら良いのでしょうか。
これに対しては、幼児期は何も教えずに、自由に伸びのびとした環境で育てるのが望ましいという考え方があります。たとえば、自然の中で木登りをしたり、虫とたわむれたり、走り回ったりなどさせてあげるのがいいというのです。たしかに、そうしたことはとてもすばらしいことのように感じます。
ところが、そこにおける子どもたちの姿をよくよく観察してみますと、一見拘束されず自由に振る舞っているように見えますが、集団生活に必要な秩序がなく、文字どおりやりたい放題がくり返されています。つまり、そこには、多くの子どもたちと接することによって芽生える「約束ごと」に関する体験に欠けるという大きな欠点があるのです。
幼い子どもは好奇心が旺盛で、規律に対してさえ興味を示します。じつは、この時期こそ、規律(生きるための規準、秩序、ルールなど)を覚えなければならない大切な時期なのに、「自由」という名のもとに放任され、規律に対する感性を身につけないまま小学校、中学校へと進んでいってしまうことがとても多いのです。
大勢の仲間たちと、約束事をしっかりと守り合える環境の中にいてこそ、子どもの規律に対する感性は身につくのであり、この時期にこそ大きく伸びるはずの大切な能力を逓減(しだいに能力が減り、それは生涯戻らない)させないですむのです。
こうした幼児の適時性を考えて開発されたミュージックステップでは、幼い子どもの特性を活かし、音楽とのふれ合いを徹底させます。そこで子どもたちは、「満足いくまで感じて楽しむ」という体験を通して、楽しいからさらに挑戦的に課題に向かいます。子どもらしい素直さを発揮して課題に熱中し、人として必要なすべての感性を芽生えさせます。そして、目標とする絶対音感まで身につけてしまいます。
幼児期には確かな感育を
私は、こうしたミュージックステップに三十年来取り組んできましたが、そのなかで何よりも幼児期の感育の重要性を痛感するとともに、正しく感育を実践するには、いくつかの原則を守ることが必要であることもわかってきました。くわしくは、本文中で説明しますが、ここでそのポイントだけ紹介しておきましょう。
㈰まず、言葉で教え込もうとしてはいけません。感育は、子ども自身が自然に「楽しく、面白く感じる」ことからはじめるのが肝心です。
㈪感育は、二歳前後からはじめることも可能で、グループで行なうのがもっとも楽しく、効果的です。
㈫「手を一つ打つ」というような、どの子でも「できる」体験を十分に重ねながら、「感じる」段階をワンステップずつたどっていく方法が最良であり、近道です。
㈬「頭声による歌唱」が、幼児が「感じる」世界を体験するのにとても効果的です。「頭声」という言葉は耳慣れないかもしれませんが、ウィーン少年合唱団のような歌声をイメージしてもらえるといいでしょう。この歌唱法は幼児の繊細な声帯を守るのに適していて、しかも、その響きは音楽を深く味わうのに最良です。また、幼児のような小さな声でも歌声が見事に共鳴し合うので、幼児同士が歌いながら感動的な連帯感を味わうことができます。
こうした幼児期の感育のために体系化された音楽教育システムがミュージックステップですが、はじめて接するときは「教えなくても幼児が自分の力で感じとって育つ」という独特のこだわりに戸惑うようです。それは、一般に根強く浸透している「音楽はむずかしい。だから幼い子には、やさしく、丁寧に教えなければ」という考えからきているようです。
しかし、すべての幼児は「感じる」天才であるということさえ理解できれば、ミュージックステップは音楽が苦手、ピアノなど技術的なことに自信がない、といった先生や親でも、子どもたちと一緒に無理なく実践できるようになっています。そして、子どもたちはもちろん、子どもと関わる先生や親も、楽しみながら自らの感性を高めていくことができます。
これからその具体的な内容を紹介していきますが、この本との出合いが、何より子どもたちの未来に大きな可能性を花開かせるきっかけになってくれることを願ってやみません。
プロフィール
譜久里勝秀(ふくさとかつひで)
昭和7年大阪に生まれる。昭和23年食糧難のため関西学院工業在学中に沖縄へ移住。音大受験を目指してピアノの練習に励むが、不慮の事故でピアノを断念。24年に芸大の音楽通信教育部に入部し、作曲家の下総皖一氏に師事。27年に沖縄警察音楽隊に入隊し、29年には沖縄駐留米軍クラブ専属バンドに所属。33年職業バンド活動中に幼児のための音楽教室を開設。38年には全音音楽教室沖縄支局長に就任。42年独自の音楽教育システムを開発して幼稚園で実践を開始し、48年にミュージックステップシステムとして完成。50年から同システムの全国普及を開始。55年には全国新幼児音楽教育研究会会長に就任。平成14年に久留島武彦児童文化賞受賞。