教えるより気づかせる「質問型会話テクニック」大全
オシエルヨリキヅカセル「シツモンガタカイワテクニック」タイゼン
ミルトン・エリクソンの心理療法/「伸びない人」には理由がある!/言葉の時限爆弾を心にしかける!
高橋フミアキ著
人は「心の中を言語化」できるとぐんと伸びる!
エリクソンの心理療法を会話に応用し「伸びない理由」を相手に気づかせる24の質問型会話テク。この会話テクで、言葉の時限爆弾をしかけておけば、ある日、突然、相手の心に革命が起き、大輪の花を咲かせることができる。7つの「言葉の習慣」で、人間関係もステップアップできる。
立ち読み
はじめに
部下がなかなかやる気を起こしてくれないとき、あなたはどうしますか? 怒鳴ったり、嫌味を言ったり、説教したりするのは逆効果だってことはご存知ですよね。報奨金を出しても、なかなかやる気になってくれません。お世辞を言ってもダメでしょう。
もしも、あなたのお子様が、あなたのことを無視しはじめたら、どうしますか? 何と言って声をかけますか。「挨拶くらいしなさい!」と叱っても、あなたのお子様は、小さな声でボソボソ言うだけでしょう。
あるいは、恋人が落ち込んでいたら、どうしますか? ヘタに励ますとよけいイジケてしまうかもしれません。あなたの善意による励ましをプレッシャーに感じてしまうような恋人だったら、励ませば励ますほど追い込むことになってしまいます。
「伸びない人」には理由があります。そのことに本人が気づいて、自ら自覚しないかぎり、人として伸びることは難しいでしょうし、人間関係もよくなりません。職場で、家庭で、友人同士で、そう感じる相手は必ずいるでしょう。
そんなとき、親切心から「もっとこうしたらいいよ」と教えたくなるのが人情です。ところが、いくら言葉をかけても、相手が自分で気づいてくれないかぎり、変わることはありません。教えたつもりが、かえってそれまでの人間関係をまずくしてしまうことだってあります。
いつ関係が切れてもいい相手だったら、もういいやで終わることができますが、継続した人間関係ならば、そうもいきません。互いの関係をもっとよくしたいと思えば、なおさらです。なんとか気づいてほしいと思うことはよくあることでしょう。
気づきとは、本人が自分の心の中を言語化することです。人は、それができたとき心が動きだし、伸びていきます。そのための話し方として提案したいのが「質問型会話テクニック」です。
伸びない人には共通した傾向があります。本書は、それを24のケースに分けて、それぞれに応じた会話テクニックを紹介しています。あなたが気になっている相手もどれかに相当するでしょう。たとえズバリ当てはまることはなくても、似た傾向であれば、該当する会話テクニックを応用してチャレンジしてみてください。
アメリカにミルトン・エリクソン(1901―1980年)というスゴイ、ヒプノセラピストがいました。ヒプノセラピーというのは、催眠という特殊な意識状態の特性を生かして、心身の病を癒す療法のことです。欧米ではヒプノセラピーは医療として認められていて、多くの成果を出しています。
このエリクソンがいかにスゴイ人だったかというのは、いくつかのエピソードを紹介すればわかると思います。
両親がいくら言っても爪噛みを止めようとしない6歳の男の子に、エリクソンは、こんなことを言います。
「お父さんとお母さんは、キミにね、ジミー、爪噛みを止めなさいって、ずっと言ってきたよね。けど、お父さんもお母さんも、キミがまだ6歳だってことを、わかってないようだね。
それに、キミが7歳になるちょっと前にごく自然に爪噛みを止めるってこともわかってないようだ! だから、お父さんとお母さんが爪噛みを止めなさいって言ったら、とにかく知らんぷりしなさい」
結果、ジミーは7歳になる1カ月前に爪噛みを止め、そのことを自慢するようになったといいます。
これは「ダブル・バインド(縛り)」という心理テクニックです。
くわしくは本文で解説しますが、「7歳になったら、自分は爪噛みという悪癖が治るんだ」と思い込ませるテクニックです。この思い込みが現実となり、7歳になる前に、自然に爪噛みを止めたというわけです。
こんなエピソードもあります。
ある男性が、難治性の皮膚炎を何とかしてほしいと、エリクソンを訪ねてきました。
男性の全身の皮膚には発疹があり、不眠に苦しみ、顔や脚、腕、背中の痛痒に苦しんでいたのです。
エリクソンは「まったく目立たない改善でも、やってみようと思いますか?」と尋ねました。
エリクソンは、さらにこう説明します。
「もし、1週間で100万分の1パーセント改善したら、2週間で改善率は倍の100万分の2パーセントになり、3週間後には、さらに倍の100万分の4パーセントになりますが、ほぼ間違いなく、変化は目立たないでしょう」
男性は、この考えに夢中になりました。
「さらに、もう8週間、倍の改善率で進んでいくと、128パーセントになってしまいます。それだと、一生続く症状の減少度としては早すぎます」
とエリクソンは警告しました。
「たしかに、それは早すぎますね」
と男性も、それに合意します。
前進はゆっくりのままがいいという考えに男性も同意しました。
4週間後の2度目の面談で、男性は、
「自分が改善していることはわかるが、それはまったく目立たない状態だ」
と報告します。
8週間後の3度目の面談では、前回と同じだと答えました。
ところが、最初の面談から3カ月近くなってから、男性はエリクソンに緊急の電話をします。
「もう、びっくりしたのなんのって。ふと胸を見ると引っ掻き傷がなくなっていて、肌がほとんど治っているじゃありませんか。脚を見ると、そっちも良くなっていました。その後、先週は毎晩よく眠れていたことにも気づきました。不眠なんて、どこへやらです」
男性は興奮気味にエリクソンに報告しました。
こうした数々のエピソードや心理テクニックを知った私は、「ミルトン・エリクソンという男は天才だな」と思いました。相手に気づきを与える話し方をすれば、相手の内面に変化を起こさせることができるのですから。
私は、20年近く文章スクールを主宰し、企業研修や自治体の市民大学などで文章の書き方を教えてきました。いわば、言葉の専門家です。
そんな私が前妻の死に直面して精神的に落ち込んだとき、宮崎ますみ先生と出会い、ヒプノセラピーによって蘇生しました。その後、自分もヒプノセラピストになろうと一念発起し、勉強してヒプノセラピストの資格を取得したのです。
ヒプノセラピーについて勉強をしているうちに、ミルトン・エリクソンという偉大な療法家にどんどんのめり込んでいきました。
文章スクールの生徒たちに実験台になってもらったり、グループセッションを開いたり、個人セッションをしたりして、文献を読みあさるだけでなく、現場で活用しながらミルトン・エリクソンの心理療法を研究しました。
そこで、ふと気づいたのです。
このエリクソンの心理療法を会話に応用すれば、相手に気づきを与えて、人として伸びる手伝いができるのではないかと……。そうすれば、人間関係に苦しむ人たちのお役に立てるのではないかと……。
それが、本書を執筆する発端でした。
ミルトン・エリクソンの心理療法の特徴の一つは質問の力を利用して、相手の心の中を言語化し、気づきを与えることです。ですから、本書で紹介する会話テクニックも質問の力を利用した〝質問型会話テクニック〟になっています。
質問というのは不思議なもので、投げかけられた人はついつい考えてしまいます。本人の顕在意識が忘れていても、潜在意識は考え続けているのです。
こんな経験はありませんか? テレビドラマを見ていて、「あれ? この女優さんの名前、何て言ったっけ?」と考えるのです。でも、なかなか浮かんできません。番組が変わり、女優の名前を思い出していたことも忘れ、ふとトイレに立ち、トイレの鏡を見たとき「そうだ。あの女優は〇〇だよ」と突然思い出すのです。つまり、忘れていた間も潜在意識はずっと考えていたってことです。
この会話テクニックは、そんなふうに作用します。言葉の時限爆弾をしかけておけば、ある日、突然、相手の心に大きな気づきが生まれ、相手はみるみる伸びはじめるのです。心のなかに革命が起こるのです。
といっても、この時限爆弾は爆発しません。時間がくると花が咲きます。植物が生育するように目に見えない速度で、しかし確実に相手は変化し伸びていきます。あなたは、言葉という養分と水をあげ続ければいいのです。気がつけば見事な大輪の花を咲かせるでしょう。
これは使わなければ損です。ぜひとも、職場や学校や家庭で、さらに恋愛などで、この質問型会話テクニックを試してみてください。
本書は順を追ってよんでいただいてもいいですし、関連するケースから読んでいただいてもけっこうです。何より「質問型会話テクニック」が人を伸ばし、人間関係をステップアップする助けになることを願っています。
目 次
教えるより気づかせる「質問型会話テクニック」大全……もくじ
はじめに
パートⅠ 教えるより気づかせる24の質問型会話テクニック
01 愚痴が多い人
――愚痴は心理的毒。吐き出す側も聞く側もキズだらけ
☆会話テクニック「学びの視点を与える」
02 同じ話題を何度もくり返して話す人
――拒否じゃなくて、無視じゃなくて話題を変える
☆会話テクニック「注意そらし」
03 不安でいっぱいになっている人
――「不安になってもしょうがない」は相手を否定する言葉
☆会話テクニック「背中を押す」
04 何を話しかけても前向きに反応しない人
――人間性を分析されていると感じさせないようにする
☆会話テクニック「相手の言葉をくり返す」
05 すぐに感情的になって怒りだす人
――相手の思い込みを頭ごなしに否定しない
☆会話テクニック「受け入れて質問する」
06 遅刻してきても平気な顔をしている人
――自分の気持ちをそのまま伝えればいいわけではない
☆会話テクニック「パターン介入」その1
07 迷惑な癖なのに開き直っている人
――「嫌なことは嫌」と言える関係の落とし穴
☆会話テクニック「パターン介入」その2
コラム 「愛してる」と「ありがとう」は潜在意識深くに浸み込む魔法の言葉
08 嫌みや皮肉な言葉をよく使う人
――相手が「いいえ」と答えてしまう質問をする
☆会話テクニック「ノー・セット」
09 〝何をやってもダメだ〟と決めつける人
――頑張れ! と励まして追い込まない
☆会話テクニック「スプリッティング」
10 優柔不断で決められない人
――決断すると喜ばれる経験を増やす
☆会話テクニック「選択肢の錯覚」
11 やってもらえるのは当然と思い違いしている人
――問題行動と結末をリンクさせる
☆会話テクニック「リンキング」
12 相手のために忠告していると勘違いしている人
――論破できても遺恨が残る
☆会話テクニック「言語的リンキング」
13 素直に自分の気持ちを伝えようとしない人
――「してほしい」ことでも強制されていると感じさせてはいけない
☆会話テクニック「抵抗のアンカリング」
コラム 心を強くするマインドフルネスのすすめ
14 口ばっかりで行動しない人
――期待心から説教にならないようにする
☆会話テクニック「パラレル・コミュニケーション」
15 「ありがとう」を言わない人
――外から口うるさく説教されると反発したくなる
☆会話テクニック「メタファーを使う」
16 自分が信頼関係を壊していることに気づかない人
――相手のなかに変化の種を植える
☆会話テクニック「アナロジーを使う」
17 いつも否定的なことしか言わない人
――自己評価を高める言葉をくり返す
☆会話テクニック「いい暗示をかける」
18 「これくらいはいいだろう」と思っている人
――相手を前向きな気持ちにさせるように質問する
☆会話テクニック「前提の質問」
19 口を開けば自分のことばかりしゃべっている人
――いくつかの選択肢を提案する
☆会話テクニック「ダブル・バインド」
20 いつも上から目線で話す人
――相手の心理を言い当てても何の解決にもならない
☆会話テクニック「リフレーミング」
21 態度が横柄で虚勢を張る人
――曖昧な言葉で相手を混乱させ反応を見る
☆会話テクニック「混乱させる」
22 母親から自立できていない人
――「自分のことは自分で決める」と暗示にかける
☆会話テクニック「指示的アプローチ」
23 いつまでも過去を蒸し返している人
――複数の選択肢を提供し、感情は数値化してみる
☆会話テクニック「マルティプルチョイス(多選択肢)」
24 ストレスを処理できず八つ当たりする人
――話題を変えるのが得策
☆会話テクニック「マジック・ワンド(魔法の枝)クエスチョン」
パートⅡ 人間関係をよくする7つの「言葉の習慣」
習慣① 否定しない
習慣② ジャッジしない
習慣③ 「ありがとう」を口癖にする
習慣④ 愛を伝える言葉を見つける
習慣⑤ 相手の喜びのツボを見つける
習慣⑥ 相手のやる気スイッチを見つける
習慣⑦ 自分の質問力を高める
コラム 言葉で人に気づきを与え、癒す仕事はやりがいがある
おわりに